キレる

若いやつはキレやすい。これが現代社会の合言葉です。
意味もなくキレるのが彼ら若者の特徴のようです。

ここの管理者のzakuさんは、とても理性的で冷静沈着で、怒ったことなんか無いんじゃないの?って言われることもあまり無いんですが。
仕方なしに「キレた」という行為をしたことがあります。


高校の時の話です。
同級生に和田君というヤツがいました。
小学校の頃は何度か同じクラスにもなったことがある、気のいいやつでした。
高校に入ってからはパッタリと連絡も途絶え、疎遠になっていました。
ある日、少し離れたクラスだった和田君は、クラスメイト岡崎君を連れて僕のクラスにやってきました。岡崎君も小学校からの友達です。ちょっと気が弱いが いいやつです。

岡崎君を伴って来たにも拘わらず「二人で話がある」とか言ってきました。
で、何の警戒もせずに承諾し、廊下で話を聞く。

「あのさぁ、君”進化論”って信じてる?
『・・・・・・・へ?』
「いや、この世の中のすべてのものが偶然によってできたものだと信じてる?」
『(なんだ、この切り出し方は?宗教?)とてもじゃないけど。そうは言い切りがたいよね』と彼の意見に同意。

「(目を輝かせて)そうだよね!!実は、このことについて僕は岡崎君と研究会を開いてるんだけど、それに君も参加しないか?」

『(ああ、それで手持ち無沙汰な岡崎君が脇にいるのか)ん〜、いいよ(OK牧場)』

チャレンジ元年、なんにでも飛び込んでみるってのが僕のSHINJO、いや信条ですので。
やってみてから気に食わなかったら否定する。


それから、毎週何曜日かに和田君の家に集まり、あやしげなカラーの会(当時よく街で配ってたアレ)を片手に和田君がカミサマ(仮称)の素晴らしさ、現代社会のシステムの腐敗、カミサマの素晴らしさを賛美するという、なんだかアレな研究会が始まりました。

彼が熱く語るたびに、心の中は冷めた紅茶。しかし口では激しく相槌。
それに気を良くしたのか彼は ある提案を持ちかけました
「僕の友達を集めてカレーを作ってふるまおうよ。」

友達ってのは実は宗教の仲間だったんだけれども。うららかな日曜の昼に3家族くらいが集まりました。
宗教やマルチまがい商法ってのは、本当にホームパーティが好きです。


当時は『ツヨシしっかりしなさい!』ってマンガが流行っていて
『女もすなる料理といふもの 男もしてみむとて、するなり』
といった気概でカレー作りに挑みました。僕と和田君だけでカレー作りです。
とりあえず、リビングで談笑している宗教家さんたちのことは後で考えよう、と。

なんやかやで、カレーも上手に作られて会食へ。
小さな子供が二人いて、その子らが しきりにカードのようなものを誇らしげに見せてるの。親もそれを見て誇らしげに微笑む。なにかな、と思って見てみると



輸血拒否カード



なんだかシュールな光景でした。血の気が引いた。だれか僕に血を!なんて口が裂けてもいえない状況。
まともに人生の選択なんてできないだろう幼い子供にすら、ここまでさせる宗教、おそるべし!


そろそろ潮時かと。

そんなある日の研究会で僕はとうとうキレ(たフリをし)ました。
『カミサマが世の中すべてのものを作ったっていったけどさぁ』
「うん」
『悪魔って存在すらも作ったんだよね?』
「・・・そうだよ。悪魔も最初はカミサマの使いだったんだ。だけど、心の中にあった自尊心やナントカ(忘れました)を悪いほうに作用させてしまって(とかナントカ)」
『全能のカミサマでしょ? なんで自尊心とかナントカ(忘れました)を持たせちゃったわけ?それを野放しにしちゃったの?』
「つまり、野放しにして好きなようにさせて、それでもカミサマには及ばないってことを知らしめるためさ」
『そんなセコいカミサマ信用できない、サヨウナラ。』

それが、和田君との宗教的な会話の最後だったと思います。

やがて穏やかに時は過ぎ、そんな出来事も忘れかけていた頃、自宅の電話に和田君から呼びかけがありました。「いま、ビブレにいるから おいで」と。
一瞬戸惑いましたが「ぼく、もう宗教やめたから」との一言でビブレへ。

久しぶりに会った和田君は、なんだかギラギラしていました。顔にマーガリンかなんか塗ってるんじゃないかと思うくらいに。
車(レディZ)で来てるはずなのにビールをガバガバ飲んでるし。
このときの話の内容は、宗教やめたから、これからは普通に遊んでよ、みたいな感じだったと思います。この日以来会ってないけど。

熱心な信者だったはずの和田くん。本人から聞いた話では、ヤクザの人妻に手を出して、旦那に追い回されているとか。いくらなんでも極端に変わりすぎやし。

そして岡崎君は、いまでも宗教的活動を続けているとか。眠らない街、東京で。